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知的財産(Intellectual Property)は、大学などから生まれた知的成果全体を表わすものではありません。産業や市場で価値を生み出す富で、形で表せない知的情報を総称する法律的な概念です。特許権や著作権などがこれに該当します。

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大学の使命は、教育と研究です。この2つが大学を成り立たせている基本的な機能です。大学の第3の使命・機能として、社会的貢献が強調されるようになりました。大学が「知の源泉」であり、「象牙の塔」として閉鎖的になるのではなく、「知の源泉」としての大学が、社会や地域に積極的に貢献するという役割です。社会や地域への貢献は、知識の普及や社会教育、自治体や住民との協力による問題の解決、社会的な組織への教員の関与など多様な形態や方法を通じて行われています。知的財産や産学連携は、大学の社会的な貢献の一部に含まれます。「知の源泉」から生まれた知的な成果の中には、少し工夫をすれば、企業が製品化できる成果が含まれています。市場価値を生み出す可能性のあるものを、知的財産として保有し、企業と連携し実用化を進めることは、産業競争力の強化、新産業の創出、地域の活性化に貢献します。

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大学から生まれた知的成果の中には、人類の叡智や文化として、貴重な成果が含まれます。これらの中には、知的財産(製品化して価値を持つ)となるものと、ならないものも含まれます。大学は、どちらの知的成果も、多様な方法で、社会に還元することが求められています。

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(1)アメリカを中心に産業振興策として特許を重視する政策(プロパテントと呼ばれる)があります。この政策で、アメリカは1980年代に、国の助成により得られた成果(知的財産)も大学が知的財産を保有し、企業と連携するか大学発のベンチャー企業を立ち上げ、先端技術の産業化に成功しました。(2)日本では、アメリカやヨーロッパのプロパテントにより、ロイヤルティ(特許権使用料)の支払い超過が進み、他方途上国からの追い上げ(中には、コピー商品による)が進んでいます。(3)大学の自由で独創的な研究が、新たな科学技術の発展の起動力です。しかし日本では、大学の研究成果が知的財産上有効に保有され、活用されていません。このような状況で、日本の知的財産に関わる総合的な取り組みを抜本的に変更することが政府の知的財産戦略会議で検討され、日本が知的財産を重視したプロパテントの政策を取り、知財立国を目指して進む方向が「知的財産戦略大綱」でまとめられました。

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特許の法律上、公知となっているものを特許出願すると特許として認められません。日本の場合、学会の発表後1年以内に出願すると、この発表は公知の例外とすることが認められていますが、発表者本人が出願する前に他人が同様の内容で出願したら、この他人の出願で拒絶される恐れがあります。またヨーロッパ諸国では上記例外は認められていません。特許は各国の制度に従いますので、知的財産をヨーロッパで主張する場合は、学会発表前の出願が必要となります。論文発表の場合も同様です。

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確かに、発表前に、発表の内容について、知的財産上の評価を行い、必要であれば出願することが、求められます。研究開発に近い課題の研究を行っているグループでは、研究の途中経過で、この課題が知的財産上で、どのような価値を生み出すかを、大学の知的財産に関わる専門家と相談し、発表より前に出願を終える準備を整えることが望ましいと考えます。研究者の協力と理解を求めつつ、特許スペシャリストを雇用するなど大学の知的財産担当部署の能力の向上によって特急で出願し、出願手続きを速やかに行うなど、発表に制限のかからないような方向を目指さなければなりません。

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アメリカの大学の中には、全研究経費の10%以上を特許による諸収入から得ている例がありますが、一般的にはもっと低くMITでも3%です。しかも特許による収入は、早くとも数年後からしか見込めませんので、大学が知的財産を重視する方針を取っても、当面収入が増えることはあまり期待できません。収入の側面より、大学が知的財産を活用することによって、大学が社会や産業との連携を強め、社会や産業のニーズに応えて、大学の教育研究の発展を進めて行くことがより重要です。

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TLOは、技術移転機構(Technology Licensing Organization)の略です。大学等の知的財産を有効に産業に役立て、実用化を進める機構です。知的財産は、企業が特許を利用して市場性のある製品を生み出して始めて、知的財産としての価値を持つものです。大学発の知的財産は、特許を利用する企業を見つけ出さなければ、価値を生みません。従って、大学発の知的財産を有効に活用するためには、技術移転を効果的に進める事業体が必要です。 日本では、既に40を超えるTLOが活動を進めています。これらのTLOは、財団、株式会社、有限会社、学校法人自体など多様な設立形態を持っています。現在行っている業務は、大学からの業務委託により特許出願の手続を行い、ライセンシング(特許を実施する相手側を探し、特許を利用して実用化を行うこと)、更にはベンチャー企業の設立を助ける技術的或いは経営的な助言や援助を行うことです。

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